第18話 秘技、炸裂

「……ふ、あっ」


 とても乳房とは呼べないふさを指先でやわやわと揉まれて、沙那は小さな悲鳴を上げて体をぴくりと震わす。しかしその悲鳴は、口の中で絡まる舌に潰されて、瞬く間に甘い唾液に溶けてしまった。

 不安と怖さ、それに嬉しさとか恥ずかしさとか、様々な思いが一気にせめぎ合って入り混じる。頭は上手く状況を処理できないし、心はすっかり舞い上がっている。だけど、不思議。舌の感触と胸に触れる指先の温かさが、とても気持ちいい。


「っ、はぁ……」


 唇が離れた隙に大きく息継ぎする。けれどその途中で、食らいつくようにまた口を塞がれた。くらくらと眩暈を覚えて、体から余分な力が抜けていく。すると、胸を弄っていた手が、今度は無防備な鳩尾みぞおちから腰の辺りを撫で回し始めた。

 静まり返った寝所で、くちづけと不規則に弾むふたつの呼吸の音に聴覚を支配される。その羞恥心と自分が知らない未踏の何かを煽られる響きに心臓が素直な反応を示す。
 高鳴る胸の轟きと、何だか、体が変。一度目の時みたいな感じではなくて、体の奥深くがじんわりと熱くなって……。



 どうしちゃったの、わたし。



 脚の間がもぞもぞするのを感じて、沙那は太腿ふとももをきつく閉じる。不意に、小さな音を立てて唇が離れた。息苦しさから解放されて、懸命に息を吸って吐いてを繰り返す。すると、口元にくちづけの時とはまるで違う軽やかな吐息がかかった。


「目隠しの具合はどう?」
「えっと……、具合は良好ですよ。恥ずかしさがだいぶ軽減されているような気がします」

「そう。それは何よりだね」
「……でも」

「なに?」
「見えない分、依言様がどこをご覧になっているのか分からなくて、変にどきどきすると言いますか」

「へぇ……。気のせいでは?」
「そうでしょうか」

 八条宮は沙那を褥に横たえて、華奢な白い肢体を眺めた。目に白い腰紐を巻いて、片手で胸元を、もう片方で閉じた太腿の間をもじもじとしながら隠す姿が何ともいじらしい。

 ごくりと喉が上下してしまうのは仕方がない。本能的な興奮と衝動は、自分の意志では抑えられないものだ。衣を脱ぎ捨てると、露わになった沙那特製の「愛妻家下穿きふんどし」がこんもりと盛り上がっていた。参ったな、と人差し指の先でぽりぽりと頬を掻く。



 実のところ、乙女を相手にするのは初めてだ。



 興奮と衝動は抑えられないが、抑えなくてはならないという事くらいは分かっている。八条宮は少し思案して、下穿きの紐を引いた。律儀に下穿きをたたんで、褥の脇にそっと置く。


「あ、あの、依言様?」


 心細そうな声に、八条宮は「どうしたの?」と返事をしながら沙那の体に自分の体を重ねた。髪を撫で、頬を撫で、再び唇を合わせて首筋に舌を這わせる。

 緊張して湿った沙那の肌は、想像以上に甘美だった。肌を味わいながら、次は鎖骨を舐める。沙那の体は溌剌はつらつとした性格からは想像できない程か細くて、力任せに押さえつければ一瞬で壊れてしまいそうだ。



「……あ、のっ!」



 沙那の両手が、行為を制止するように八条宮の肩を押す。八条宮は、沙那の手首を掴んで敷布の上に縫いとめた。膝を使って沙那の両脚を開いて、体をその間に滑り込ませる。


「怖くなった?」
「いいえ、そっ、そうではなくて。少しだけ待ってくださいませんか? やっぱり、恥ずかしくて」

「見えていないのだから、俺の視線など気にするな」
「でも……、ぁ、ふっ!」


 腕の拘束を解かれると同時に、胸の尖りを生温い物がねっとりと掠めた。それが舌であると沙那が理解した刹那、次は恥丘を撫でられた。視界を失くしている今、体を弄られる感覚は神出鬼没で、思わず「ひっ」と怯えたような声が出てしまう。

 それを愉しむように、胸に歯を立てられて恥丘の奥を指先で探られる。やっと冷静を取り戻していた呼吸が、一気に乱れた。


「ひ、あぁ……っ」


 からからに乾いた喉から出て来るのは、おかしな悲鳴だけ。肌が敏感に八条宮の動きを察知して、何度も何度も恥ずかしい声が漏れる。左右の胸を舌と唇で愛撫されながら、同時に秘苑へ続く割れ目の中を擦られて腰がぴくりと跳ねた。


「ぅ……、あ、んんっ」


 沙那は、敷布を逆手に掴んで声を押し殺す。熱のこもった荒々しい吐息とさらさらとした銀髪が肌をくすぐって、それだけでも意識が遠くへ行ってしまいそうになる。それに花蕾を指で押し潰される感覚まで加わって、体がびくりと大きく震えた。


「い、や……っ」


 全然嫌じゃないのに、拒絶の言葉が口をつく。気付けば、与えられる気持ち良さが恥じらいを凌駕していた。

 沙那、と時折かすかな声で名前を呼びながら、八条宮が指先を奥へと滑らせていく。やがて指は、誰も触れた事のない場所に辿り着いた。傷つけないように優しく円を描くように、丁寧に、丹念にそこに触れる。違和感が快感に変わると、触られている所が熱くなって、くちゅくちゅと水音が立った。


「ふぁ……、ああっ!」


 濡れそぼった蜜口から、指先が体の中に押し入って来る。入口を何度も擦り上げて、ゆっくり指の付け根まで挿れて、それを繰り返して指の数を増やされた。

 もう何をされているのかわからない。途切れ途切れの息をしながら、沙那は遠のく意識を必死に保つ。

 それから沙那は、体がほぐれるまで八条宮に全身を優しく愛撫された。そして、沙那の思考がふわふわと夢現の狭間をさまよい始めた頃――。


「……沙那」


 これまでにないほど切なげな声が聞こえて、愛撫によって蕩けた蜜口に指とは違う物が押しつけられた。一気に意識が現実に引き戻される。体を弄られるくだりは未知だったけれど、男女の何がくっつくのかは図解での講義を受けているから知っている。



 ――こ、これはもしかして、依言様の……!



 いよいよかと、沙那は目隠しの下でまぶたをぎゅっと閉じてその時を待った。それは秘裂を往復して、花蕾を押し潰すように捏ねて、ぬちゅっと淫らな音をわざとらしく響かせて蜜口に先端を沈めた。


「ぬっ、くぅ……っ」


 唇を嚙みしめて、沙那は実に色気の無い猛者もさの如し声を漏らした。色気がどうのと気を回す余裕など微塵も無い。呼吸を整えようとしてもみても上手くできなくて、秘孔を押し広げられる未曽有の鈍い痛みに体中の神経が緊張する。

 八条宮が少し動くと、沙那が「あぅ」と掠れた悲鳴を上げた。
 事の進み具合といえば、まだ鈴口が秘苑に埋まった程度である。できるだけ痛みを感じさせないように……、とは思う。しかし、甘露でぬかるんだ隘路あいろにぎゅうっと締めつけられたら、本能を解放してしまいたくなるのが男のさが

 八条宮はなんとか理性を保って、沙那の目を覆っている腰紐をしゅるりと一息に解いた。ところが、沙那は目を開けようとしない。


「つらかったら、俺にしがみついてもいいよ」
「……は、はい」


 沙那の返事を聞いて八条宮がふっと気を抜いたその時、首に細い腕が、腰に何かが巻きついて強い力でぐぐっと体を沙那の方へ引き寄せられた。


「あ」
「ひ、ぐっ!」


 咄嗟に両手をついて、沙那を押し潰すのだけは何とか回避できた。しかし、不可抗力的に腰が落ちて、ずにゅっと一気に奥まで貫いてしまった。破瓜の痛みはつらいと聞くから丹念に体を開いたのに、これでは水の泡だ。


「く……ぁ、いた……、いっ」
「す、すまない」


 八条宮が手探りで腰に巻きついたものを確かめると、沙那の両脚ががっちりと腰を挟んでいた。


「沙那……っ、この足は、なに? なぜ俺の腰を?」
「しっ、しがみついてもいいとおっしゃったので、必死にしがみついております……っ!」


 沙那は、息を詰まらせながら答える。
 だって、つらいのだもの。「あの場所の違和感」どころの騒ぎじゃないのだもの。お腹の中が、奥が、痛くて熱くて……。息もちゃんとできないし、何かにすがっていないとおかしくなってしまいそう。

 沙那を苦しめているのは八条宮の陽物なのだが、それどころではない沙那にとって八条宮は助け舟。現在、救いを求めて頼れる唯一の存在なのだ。知らず識らずのうちに技を決めている事に気付く由もなく、沙那はさらにぎゅっと手足に力を入れた。


「沙那」


 名前を呼ばれて、恐る恐る目を開ける。すると、涙で歪む視界に琥珀色の煌めきがふたつ飛び込んで来た。眉間を銀糸の髪にさわさわとくすぐられて、沙那はとても近い距離に八条宮の顔があるのだと気付く。


「あなたが何をしても驚かない自信があったのだが、俺もまだまだだな」
「ひ、ぇ……? わ、わたし、なにか粗相を致しましたか?」


 していないよと、軽やかな笑みを浮かべて八条宮が沙那の唇を啄む。接点を変えて何度も、その柔らかさとか弾力を堪能するように。それがくすぐったくて気持ち良くて、沙那は弾け飛びそうな胸の鼓動を感じながら八条宮に身を委ねた。

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